秋の こもごも


“豊穣ゆえに?”




いやに駆け足でやってきた感のある秋の、
その爽やかな過ごしやすさを まま堪能してごらんということか。
日本の九月終盤、
陽のあるうちはまだ少し汗ばまないでもない頃合いに、
シルバーウィークと銘打った、秋の大連休が設けてられており。
こうとなったのも最近のことで、
そもそもは敬老の日が十五日だったのを第三月曜へとずらし、
長いめの連休を設けることで
出来るだけ行楽や団欒などで骨休めをしてもらおうとかどうとか。
そのような…心遣いだか 経団連との兼ね合いだかによる政治家せんせえの思いつき、
ハッピーマンデー法というのが制定されての運びだそうで。
そんな秋の連休が、今年は何と五連休。
初夏のゴールデンウィークや お盆も含むの夏休みにはさすがに及ばぬが、
それでも結構な日数なその上、
お日和にも恵まれそうだとあって。
お彼岸の墓参りを兼ねて帰省するもよし、
ちょっと遠出する格好、泊りがけの行楽を張り込んでもよしと、
世間様は何とはなく沸いてござったものの。
我らが最聖のお二人はと言えば、
この地に居ることが既に“バカンス”という身。
行楽を楽しむのに
何も込み合う時にわざわざ混ざりにいかずとも…と、
そこはのんびりと構えてござる。

 「時期に意味があるならともかくね。」
 「そうそう。」

人日(じんじつ)、上巳(じょうし)、端午(たんご)、
七夕(しちせき)、重陽(ちょうよう)という“五節句”に付きものな習わしや、
大みそかに撞くから意味がある“除夜の鐘”ならともかく。(う〜ん)
秋ならではな紅葉はまだ始まってもいなかろし、
旅費も宿泊費もその他もろもろも、シルバーウィーク特別料金となっていように
皆様につられることもなかろうと。
此処はも少し季節が深まるまで、自宅待機とする構えのイエス様とブッダ様であり。

 『じゃあってのもなんだけど、
  私たちの連休はそれじゃあ日替わりスィーツで楽しむってのはどうだい?』

そもそもはといや、
地上での生活を始めるにあたり、
少ない予算のやりくりをする上での必要に迫られて自炊を選んだのではあるが。
慈愛の如来様だけあって…というべきか、
ほぼ初めての手作り料理を
イエスがそれはそれは嬉しそうに美味しい美味しいと食べてくれたのが、
胸にキュンと来たのが 思えば始まりのようなもの。
もともと天才肌で、興味が向けばとことん極めてしまう傾向の強い釈迦牟尼様。
テレビや何やで情報も集め、毎日コツコツ続けるうちに、
近隣の主婦の皆様も参考になさるほどの腕前となっており。
日々の食事にとどまらず、スィーツも器用にこさえてしまわれるものだから。
おかげさまでヨシュア様のコンビニでの買い食いも一気に減ったほど、
すっかりと胃袋を掴んでおいでだったりもし。

  秋と言ったらいろいろな果物や野菜が旬だから
  そのままは勿論、ケーキやコンポートにしてもいいし、と

スィートポテトやモンブランも作っちゃおうか?なんて、
甘いものが大好きなイエスが喜ぶだろう 美味しい話を差し向けたところ。
途中からその表情が止まってしまい、反応も微妙に薄くて。

 『……いえす?』

どうかしたの?と問うたところ、
スィーツよりも美味しそうなキミだなぁなんて見惚れてましたと、
麗しくも愛しい君からの凝視に負けて、
ついつい白状してしまったヨシュア様だったのでありまして。
それへと、

 友達なのに…美味しそうって
 あら○のよるに ですか、とかいう

時事ネタぽいツッコミが入って いなせればまま上級。
世にいう“古女房”の域へまで達してござると 言えもするところだが。

 「え?  …あ。////////」

聞いた瞬間は意味が分からず、それゆえの呆気にとられたお顔のまんま。
ややあって…吸い込まれた頭の中にて、
緋色のコスモスみたいにはらりと花開いて意味が掴めたその途端、
淡い紗のかかった中にハスの実あんが透けて見えるよな、
上等な羽二重餅みたいにふわふかな白い頬が
じわじわゆっくりと緋色に染まってゆく辺りがまだまだ初心な如来様。(笑)

 「…も、もうもう。////////」

何と応じたらいいものか。
気の利いた冗談口で誤魔化せず、
やだもう、としか言いようがなくって
その傍についてた卓袱台の天板を、真っ赤になったまま見下ろすしかなくて。
だって今日のイエスったらば、
こういうやりとりで時々見せるお茶目なお顔、
ふふーなんてふんわり笑ったままっていう、
いわゆる“余裕”を示してくれなかったんだもの。
そこへ乗っかって“こらぁ”なんて怒ってお終まいって方へも流せないまま、
唇をうにむにと噛みしめておれば、

 …ばささ、かしゃがちゃ、と

不意に強い風でも吹いたか、
窓辺に掛けてた小物干しが音立てて揺れた。
空気もさらりとした何ともいいお日和だが、
初夏のそれにも似たやや強い風が不意に吹きつけることもあり。
何も吊るしてなかったピンチが揺れ、意外に大きな音が立った模様。
それへとつられ、視線を窓辺へやったブッダが、

 「ありゃま。」

ピンチへの挟みようが甘かったか、
端と端を挟んで二つ折りにして干していたフェイスタオルが一枚、
端の一方が外れて宙ぶらりんになっているのに気がついて。
そのままだと落ちかねぬと立ってゆき、
慣れた手際で手を伸べて、外れた側を手早く元通りに直してしまえば、
少し傾いてた枠も真っ直ぐに体勢を立て直し。

 「…うん。」

そうまで几帳面というつもりはないけれど、
実は…ポスターが微妙に斜めに貼ってあると気になるし、
掛け時計が壁や柱の垂直から曲がっていると直したくなる。
色鉛筆やクレヨンが
グラディエーションを成す並び方になってないと気になるのは
意外や意外にイエスの方で…って、
いやそれはともかくとして。
きちんとした仕上がりに戻った洗濯物に、
満足げになってのこと、視線をしばし留めていたものの、

 「ぶ〜っだ。」

思いがけないお声掛けがあって、
ひゃああっと肩をすぼめて飛び上がりかかった。
不意を突かれたからでもあったが、
耳元すぐという至近からの声でもあっただけに、
びっくりしてのこと
うわぁああっと躍り上がったそのまんま、
へなへなっとその場へ座り込んでしまったブッダだったものだから。

 「ありゃ。」

今度はそんな悪戯を仕掛けた側、イエスが“ありゃまあ”と鼻白らむ。
先程のやり取りへの間の悪さ、
彼なりにやり過ごそうとしての茶目っ気らしかったのだが、

 “…あ・そっか。///////”

今になって思い出したのが、
こちらの如来様、様々な苦行をこなしたせいかどんなことへも耐性が強いものの、
お耳の縁から内側にかけては驚くほどに敏感でいらっしゃる。
自分で綿棒を使ってのお手入れをする分には何ともないらしいのだが、
今のように不意打ちで吐息がかかるとか、
ちゃんと覚悟の上であれ イエスが耳掃除をと耳かきを使ってあげたりしようものなら、
聞いてる方も赤面しそうなくらいの甘くて艶っぽいお声を上げてしまうほど、
我慢しきれぬ弱点なのでもあることで。
しかもしかも、
お声と同時、ふわりとその背へ寄り添った温みがあって。
ワイルドオレンジの匂いが染みたそれは、
大好きなイエスの、機嫌のいい時の匂いであり暖かさではないですかと。
そんな特別な素要つき、いわば甘美な刺激に襲い掛かられたものだから、
総身が震えてのこと、へたり込んでしまったらしく。

 “えっとぉ。”

立ち上がる気配もひそやかに、ちょっと驚かせようという程度の魂胆で
そんな悪戯をしでかしたイエスはと言えば。
どうしたもんかと後ろ頭に手をやったものの、
う〜んと考え込んだのも ほんの刹那のこと。
自分もまた畳の上へと座り込み、
恥じらうようにか頬と耳とを手のひらで包み込むよにしている伴侶様なのへ、
まるでゆずの葉にとまる蝶々に近づくように、
そおっとそおっと寄り添って。

 「ごめんね、びっくりさせちゃったね。」

妙なことを言っちゃったすぐあとで
まだドキドキしてたに違いないのにねと、
そこまでの連動が判っていたのかどうなのか。
日頃の割と(割と?)泰然とした彼をようよう知るだけに、
目に見えて驚いてしまわれたのへは さすがにごめんなさいの心持ちも沸くもので。
男臭いとまでは言えないが、それでも
お髭もマッチした精悍な造作も冴えて、
成年男子としての頼もしさを滲ませるお顔なの、
ややしょぼんと俯かせてしまわれては。

 「あ…。////////」

いやあの、そんなに落ち込まなくともと。
それこそ惚れた弱みもあってのこと、
ブッダの側もあたふたしてしまったりし。
がっしり逞しいとは言えないが、
尋深いその懐を支える両肩を落としての気落ちっぷりへ、
ブッダの側から励ますつもりかその手を伸べれば、

 「許してくれる?」

胸元の側に流れておりた、濃い色の髪の波。
それへと埋もれかかった細い頬も頼りなく、
上目遣いになった玻璃色の双眸に問われてしまうともういけません。
うわぁあっと驚いたのはこっちだというに、
ドキドキするよなちょっぴりいけないカテゴリの
甘い誘惑に連なる温みと匂いへ心揺れたのもどこへやら。
痛々しい項垂れようなのへ、お顔を上げてとこちらから延べたその手だったのを、

  イエスの白いTシャツへと触れる直前

指の長い、頼もしい作りの両手が
攫うように、でも そおと掴まえての包み込む。

  “…え?///////”

乾いた熱をまとった手は、そのまま彼の肌の感触でもあり。
先程 耳元で情のこもった低めの甘いお声を掛けられたことや、
その折に感じた大好きな匂いと
触れるか触れないかだった彼の肉惑へのドキドキとが相まって
かぁあっと体温が上がってしまったばかりだというに。
こうまで間近に愛しいお人のお顔があって、
引き寄せられた先には
いだかれると この身を巡る血脈がさぁっと泡立つように煮えてしまう
頼もしさと罪深さとを合わせ持つ、離れがたい懐ろがあって。
まだ冷めやらぬほのかな微熱が、
宿ったままだった頬やうなじから 喉元通って胸元へまで降りかかり。
きゅぅんと甘くつねられたそのまんま、
そこから総身へ送られんという態勢へ運びかかる。

  あ、あ、ダメだダメだと

まだ明るいのにとか、も少し待ってとか、
沸騰しかかる体温の中で、もがくように言葉を探した釈迦牟尼様だったが。
大切なもののよに押し頂かれた自分の手、
呆気にとられたそのまま力が入らずにあったのへ、
やわらかく接吻なんかされてしまっては

  「あ」

さりさりというお髭の感触もくすぐったい、
覚えのある唇にての接吻に。
あああ、やっぱり食べられちゃったと
頭の中のどこかで誰かが呟いたよな気がした
ブッダ様だったそうでございます。




そのまま真っ赤になった釈迦牟尼様が、
混乱した挙句にお怒りの光を帯びて仏のお顔を減らしたか、
それとも…螺髪がほどけてしまうほどの恥じらいに困惑したまま、
愛しいヨシュア様の懐ろへぽそりと受け止められて、
むにゃむにゃと蕩けるが如くに甘やかされたのか。
はてさてどっちかだったかは、
そのあとのお昼ごはんが随分と遅れたってことだけじゃあ
……読み取れないですかね、皆々様vv





   〜Fine〜  15.09.23.


 *何だかじれったい話運びになっちゃいましたね。
  甘やかされる辺りの描写も曖昧でしたが、
  だってまだ明るかったしぃvv(黙れ)
  つか、ブッダ様の天然さとイエス様の天然さって
  ウチではどうやら、滅多に 同時炸裂はしない模様です。(笑)
  甘い甘い雰囲気のまま、
  美味しいおやつ、作ってもらえるといいですねvv
  (こらこら、身も蓋もない…)


ご感想はこちらへvvめーるふぉーむvv

bbs ですvv 掲示板&拍手レス


戻る